コーヒー豆買付 ペルー出張記 - 極東ファディ株式会社の採用サイト

コーヒー豆買付 ペルー出張記

2023年は色々なご縁をいただき、6月のグアテマラに続き、8月と11月に南米ペルーへと向かった。

 アメリカのヒューストンを経由し、首都リマまでは計18時間のフライト。トランジットの時間を含めると、丸1日かけての移動だ。

 「ペルーは南アメリカ西部に位置する共和制国家である。北にコロンビア、北西にエクアドル、東にブラジル、南東にボリビア、南にチリと国境を接し、西は太平洋に面している。紀元前から多くの古代文明が栄えており、16世紀までは当時の世界で最大級の帝国だったインカ帝国の中心地だった・・・」と、ウィキペディアで調べるとこんな説明が出てくるが、実際に行ってみて最初の印象は、「朝の霧がすごい」事である。

 沿岸を流れる海流(フンボルト海流) という寒流の影響で生ずる海霧が、海岸に面している首都リマを毎朝すっぽり覆ってしまう。日中以外は肌寒く、夜は長袖2枚のうえからジャケット着て丁度よい感じだった。

【8月】ペルー生産者との商談会

 まずは8月のペルーについて

 きっかけは3年ほど前から始まる。当時ペルー大使館から「日本でのペルーコーヒー販路を拡大したいので、日本のコーヒー事情について色々教えてほしい」と頻繁にメールがきていた。

 とりあえず知ってる事は説明したが、それに対して特に反応(御礼)が返ってくるわけでもなく、それからも1年おきに同じようなやり取りだけが続いていた。それが2023年の8月になって、突然「ペルー生産者との商談会に行きませんか」という招待になって戻ってきた。

 僕はかれこれ10年位、COE審査員という役目で生産国に赴く機会をいただいているが、実際に生産者と顔を合わせ、「売買」を目的にゆっくりと商談する機会は今までなかった。いつかはそんな機会を、という気持ちは年々高まっていたので、このお誘いは僕にとって「渡りに船」だったのだ。

 今回の商談会は、ペルー北部のコーヒー生産地、カハマルカのハエンという街で開催される。深夜にペルーへ入国し、その日は首都リマで一泊。翌朝、国内線でカハマルカへ移動した。

 空港で、今回の商談会に参加するメンバーと顔を合わせた。アメリカ、コロンビア、スペイン、イタリア、フランス、台湾、タイ、中国、韓国など、世界中から満遍なくという感じで、日本からは僕を含めて2人だけだった。

 最寄りの空港からは、車でハエンまで移動。最寄りと言っても山岳地帯なので、移動時間は軽く6時間を超える。

 ちなみに最寄りの空港がある町の名はチャチャポヤスといい、現地スタッフ曰く「マチュピチュで有名なクスコに次ぐ、素晴らしい観光名所が沢山ある場所」だそうだ。世界遺産へ登録申請中の遺跡も沢山あるらしい。

 早朝に首都リマを出発し、ハエンのホテルへ到着したのは21時。その日はそのまま就寝となった。

1テーブルにつき1社が座り、対面に生産者が座ると商談がスタートする。今回は時間制で、30分おきに生産者が席を立ち、次のテーブルに移る「お見合い」システムだ。

さて、ここで1つ深刻な問題があった。コーヒーの生産者は、基本的に英語を話せない。彼らが話せるのはスペイン語だけで、そして僕の知っているスペイン語は「グラシアス(ありがとう)」と「アミーゴ(友達)」だけという事だ。

 これがずっと心配の種だった。そこで日本を発つ前に、大使館へ「何とかしてくれ」と頼み込んだところ、「通訳」を付けてくれるという。やれやれこれで一安心と思ったが、メールの続きには「スペイン語を英語に通訳」と書かれていた。

 「まったくわからない言語」が、「よく分からない言語」に変換されるだけのショック。正直、前の晩は眠れなかった。

そんな感じで不安気に始まった商談会も、何とか無事に終える事が出来た。

 前の晩、ベッドの上で腕組みしながら考えた結果、事前に質問リストを作成する事にした。翻訳アプリを駆使し、10項目位の質問を英文で書き留める。当日、これを先ずは通訳者にみせておけば、話す内容を探して思考がフリーズする事はなくなるだろう。そしてその策は、実際に上手くいった。

通訳してくれる相方との相性も良かった。やってきた17歳の若者はとても気の利く奴で、質問リストを理解した後は、僕が合図を出す前に率先して生産者から情報を聞き出してくれた。

 朝9時から19時まで、30分おきに生産者が入れ替わり、立ち替わる。合計15組の生産者と、その日は交流を持つことができた。

8月のペルー出張では、商談会以外でも貴重な出会いがあった。

商談会の翌日、ハエン近辺の農園を訪問する事になった。案内してくれた「ぺぺ」と言う男性は、Origin Coffee Lab という輸出業者のスタッフで、自身も農園を持っているという。

左がペペ氏
右は訪問した農園「ラ・パレスティーナ」のオーナー

 農園までの道中、ペペが「お前の会社は何て名前だ?」と聞いてきたのでファディだと答えると、一瞬驚いた顔をした後、満面の笑みを返してきた。「そうか、あのファディか!俺達の農園のコーヒーを何度も落札してくれた!」。COEで落札してきたペルーコーヒーの多くが、彼のグループのコーヒーだったのだ。

 ファディが落札するコーヒーは、いつも品質重視で選ぶ。農園や生産者の知名度で選ぶ事はほぼない。そんな中、彼のグループのコーヒーを何度も落札しているという事は、ファディの嗜好と相性が良いという事になる。そして実際、訪れた農園の状態は素晴らしく、無意識でも彼らの手がけるコーヒーをずっと販売し続けていた事が誇らしく思えた。

【11月】COEペルーの国際

 そして11月、今度はCOEの国際審査員として、再びペルーへと向かった。

 COEはコーヒーオークションの先駆け的な存在であり、20年以上経った今でも、数あるオークションの中で特別な意味を持つプログラムである。

 国内から集まった300以上のコーヒーを、初めに国内審査員がカップ (カッピングによる審査)して40に絞る。その残った40を、世界中から招集された約20人の国際審査員が3~4日かけてカップし、最終的に上位25~30のスペシャルティコーヒーを決定する。

 そこからおよそ1ヶ月後、世界同時開催のインターネットオークションにかけられ、世界中のコーヒーバイヤー&ロースターが、それぞれの求めるコーヒーにビッドする事になる。

 今回も20人の審査員が招集された。昨年までと比べ明らかにアジア圏の審査員が多かった。アメリカ1名、欧州3名、オセアニア1名以外はすべてアジア。さらにその中でも、中国・台湾・タイが半数を占めている。台湾とタイは、昨年からCOEオークションが始まったコーヒー生産国でありながら、消費国としても急成長が続いている。

 年々、コーヒーの評価を記録するスコアシートもペーパーレス化が進んできている。

 COEではグアテマラがいち早くデジタルスコアシートを開始したが、それは現地の主催団体が用意してくれる専用のタブレット端末を使用するもので、中身もグアテマラ独自のフォーマットである。

 他の国では、「Cropster Cup」というアプリを使用する事が多い。これは誰でもダウンロードできるアプリで、メールアドレスその他の情報を入力してアカウントを作成すれば、その後は主催団体がそのアカウントにカッピング内容を送るだけで、そこからセッション(審査員によるカッピング)がスタートする。つまりスマートフォンの持参が必須であり、操作性を考慮すると、できるだけ新しい機種を持っている方がストレスフリーだ(画面が大きいと尚良い)。

 アプリによって、審査側も集計側も作業が楽になった。得点やコメントはタッチするだけで済み、修正もあっという間。困る事と言えば、並んでいる全てのコーヒーの評価を一度に俯瞰できない事だ。横のコーヒーと比べながら優劣を付けるわけではないが、それでも自分の評価を見直す際、全ての評価を並べて再考したくなる時がある。

カッピングとは
「質的評価‐素晴らしさの数値化」

評価項目

1.Flavor(風味特性)       :香りと味の総合的な印象

2.Aftertaste(後味の印象度)   :後味の心地よさ

3.Acidity(酸の質)       :明るさ、爽やかさ

4.Mouthfeel(液体の質感)     :口中での触覚的な心地よさ

5.Clean cup(クリーンカップ)   :液体の透明性、雑味のないこと

6.Sweetness(甘さ)          :チェリーの熟度と均一性

7.Balance(ハーモニー)      :ハーモニー、均衡性

8.Overall(オーバーオール)   :評価者の好み、好きか否か?

☆評価するのは味の強度ではなく、質的な美味しさ、素晴らしさ

☆各項目8点満点で評価、その合計点に基礎点36点を加えた

 100点満点でスコアリングする

こうやって第3者に撮影された写真をみると、我ながら「感情を隠せないな」とシミジミ思う。当時を振り返ると「この人達は何のために評価しているのだろう?」という気持ちだったと思う。

 今回も何人かの参加者はオブザーバー(プレ審査員、最終的な審査結果には反映されない)だった。多くのオブザーバーが、COEに参加する事は長年の夢だったと語る。それは良い事だが、コーヒーの評価スキルに対しては「?」が付く人も少なくない。

 共通するのは、フレーバーコメントだけが多い事。そして全てのコーヒーに90点近いスコアを付ける事。最後に、彼ら彼女らはオークション自体に殆ど参加しない!事。

 『グレープとオレンジと桃とリンゴとチョコレートとハーブとヌガーとトマトと紅茶とマンゴーとカシスとミントとライチの風味があるコーヒーです』と説明されて、じゃあ買う!と喜ぶ消費者の姿を、僕は想像できない。過多なコメントをそぎ落とし洗練させた方が、そのコーヒーの個性が際立つし、スタッフも自信を持って説明できる。COEの審査員は消費者に響くコーヒーを選定すべきで、その為の評価・コメントをすべきだと思う。けれども新世代の審査員には、「自分のカッピングスキルをアピールする為の評価・コメントをする」人たちが多くいる。

BREAK
~ペルー料理は美味い~

 昨年の6月20日、スペインで「世界のベストレストラン50」が発表され、世界一に選ばれたのが、ペルーの首都リマにあるレストランだったらしい。砂と岩の多い乾燥したイメージを持たれがちのペルーだが、行ってみると肉も魚も野菜も果物も豊富で、食文化は多彩だ。また、かつて日本を含むアジアからの移民が多かった時代があり、アジアの調味料も柔軟に取り入れられているので、味にも馴染みやすい。

 代表的な魚介料理「セビーチェ」も当然食べたが、今回は「ロモサルタード」を紹介したい。ロモは(牛ヒレ)、サルタードは(炒め物)の意味で、つまりは牛ヒレ肉の炒めである。付け合わせのフライドポテトも一緒に炒め、味付けには醤油を使う。主食は米なので、もはや日本の定食屋で食べる焼肉定食に近い。

 滞在中、色んなお店でロモサルタードを食べたが、最も美味しかったのはリマの郊外にあったレストランだ。店員も程よく不愛想(笑)だったので逆に居心地がよく、長居してしまった。学生が沢山いたので、おそらく味とボリュームと価格のバランスが良い店だったのだろう。

少しボヤキになってしまったが、審査の姿勢に疑問符が付くジャッジはあくまで少数で、多くのジャッジは信頼に足るカッピングをしていた。

 ペルー国内から選抜されたナショナルジャッジの青年と全てのセッションで一緒だったが、彼は昨年のカップテイスターズ(味当て)大会の国内王者だった。眩しい位のやる気に満ちていて、発言も積極的。フレーバーコメントが多く全てに高得点だった感は否めないが、の場合は自国愛ゆえの仕方なさだろう。

 お湯差しや片づけをしてくれた現地のスタッフも明るくて親しみやすい。顔立ちは中米のグアテマラやコスタリカ等と差はないのだが、仲良くなるまでの距離が近く感じる。

 ペルーはブラジル・アメリカに次いで3番目に日本人移民者の多い国(約10万人)だ。であれば、他のアジア人移民も相当な数だろう。そういった意味で、様々な人種と接する事に抵抗がないのかもしれない。

  数年前に比べてオークションに参加する日本のロースターは随分減ったが、今回一緒になった方たちは今でも自社落札を狙って参加しており、審査に対する姿勢も真剣だ。全てのセッションで、最後までカッピングを続けるのは日本人だけだった。

写真右から(敬称略)

☆関根 伸慈 (WATARU

 20年以上COE審査に参加している大ベテラン。今回のヘッドジャッジも、事あるごとに関根さんの意見を参考にしていた。

Nara Moriya Snow Beans Coffee

 韓国の方で、日本人男性と結婚。東京でカフェ&ロースタリーを経営している。COE参加年数はまだ3年程だが、複数の国に連続参加し続け、参加回数はすでに僕より多い。

☆森 崇顕 (COFFEE COUNTY

 日本を代表するコーヒーマン。本店は久留米にある。コーヒー関連のカリスマ性は僕と雲泥の差だが、同じ歳な事もありプライベートな会話をすると、どこにでもいる「悩める父親」な感じで、何だかんだ親しみやすい。

 審査の最終日、アワードセレモニー(表彰式)出席の為に、ペルー南部の古都プーノ (Puno) へと移動した。

 プーノは標高約3,800 m、人口約25万人の小さな町だが、世界最高地にあるチチカカ湖、そしてインカ帝国はじまりの地として有名だ。チチカカ湖は南米大陸を縦断するアンデス山脈のなかにあり、陸に囲まれた淡水湖。湖面の60 %がペルー、40 %がボリビアという面積比率になっている。つまり向こう岸は、隣国ボリビアというわけだ。

 海抜標高 0 mのリマから一気に 3,800 mのプーノへとフライトすると、大半の人が「高山病」の洗礼を浴びる。僕も見事に洗礼を受けた。プーノの空港に着いた直後は寒さと緊張で特に違和感に気付かず、「あれ、意外と大丈夫じゃない?」等と浮かれていたが、徐々に体が重くなっていった。階段を 1段上る度に息が切れる、生あくびが止まらない、視界が狭くなる・・・。

 そんな感じで皆ダウンしている中、「標高が変わると味覚も変わるのか?もう一度、最後のセッションをカッピングして体感しましょう!」と、ヘッドジャッジが提案してきた。  鬼である。

アワードセレモニーの会場は、プーノにある大学の大ホールだった。

 「FICAFE」と呼ばれる、このコーヒー展示会は毎年4日間ほど開催される。開催地はペルーコーヒーの主要生産地を転々とし、今年がプーノだったというわけだ。

 標高が高いので夜はかなり冷え込んだが、会場内の熱気は凄かった。ペルー中のコーヒー生産者ブースが所狭しとならび、合間を縫うように飲食の屋台がひしめきあう。ミスペルーが笑顔を振りまきながら歩いているかと思えば、大道芸人が10個くらいのお手玉を披露する。生産国のコーヒー展示会は、まさに国をあげてのお祭りだ。アワードセレモニーが行われるステージも、先に始まった歌謡ショーが予想以上に盛り上がり、なかなか始まらなかった。

 

セレモニーは、今年のCOEにノミネートした30農園のうち、下位から発表される。点数、栽培品種、精選方法(プロセス)、そしてと、少しずつ農園の情報が司会者から発表するたびに、客席から歓声が上がる。

 ただし歓声も、客席全体からあがるわけではない。生産エリアごとに応援団がいるようで、自身のエリア名が呼ばれた際に、その一帯からウォー!と声が響く。

 今年のCOEにノミネートしたエリアは、8月に訪れた北部のカハマルカとマチュピチュで有名なクスコが特に多かった。開催地となったプーノからは、残念ながらあまりノミネートしていないようだった。

右の写真は、栄えある1位を獲得した農園の表彰シーンだが、受け取っている人は本当の農園主ではなく、その一帯からコーヒーを買い付けているブローカーの親分らしい(たしかに、バックスクリーンに映っている写真の農園主と顔を比べるとまったくの別人だ)。年に1度の大イベントだが、お金や時間の都合で表彰される本人が参加できない農園も多い。スペシャルティコーヒーの大部分を支えているのは、やはり未だに家族経営の小規模生産者たちなのだと改めて実感する。

終わりに

 2023年は、日本とペルーの外交関係が樹立されて150年という節目の年だった。そのような記念すべきメモリアルイヤーに、ペルー参加を快諾してくれた秋本社長や篠栗珈琲焙煎所の皆へ、まずは感謝を申し上げたい。

 今回の訪問で、僕はすっかりペルーが好きになった。コーヒーが素晴らしいのは勿論、自然や歴史、食文化や人の雰囲気も含め、時差が12時間近くある異国のはずなのに「ご近所感」が半端ない。

 コーヒーの少し真面目な話をすると、2022年のメキシコと同じく、高品質のコーヒーを持っていても売り先が見つからない生産者が、まだまだ多いと感じた。安売りすれば大手は買ってくれるが、それでは採算が取れない。そもそも単一農園では、売買契約に繋がるほどの数量が生産できない農園だってある。

 そのような農園を救済する事を目的の1つとし、COEというプログラムは発足した。20年以上経過して参加する人や取り巻く環境は大きく変わったが、今でも根幹の信念は変わっていないと信じている。今後もCOE等のオークションプログラムに参加し、1人でも多くのコーヒーピープルが豊かになり、コーヒーを好きでい続けられる手助けをしたいと思う。

Profile

篠栗珈琲焙煎所 / 堺 武司

2002年入社。 焙煎歴22年のベテラン。各国コーヒー豆の買付にも自ら赴き、Cup of Excellenceの国際審査員を務める社員の1人。

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