6月10日(土)
「グアテマラへ」
午後7時、ラ・アウロラ国際空港に到着。翌週から始まる、プライベートオークション「OOAK(One Of A Kind Guatemala」に出品されるコーヒーを審査・選定する為、4度目のグアテマラ出張となった。
到着早々、少し焦る。普通なら迎えに来ているはずのスタッフが、いつまで経っても来ない。
かつて訪れたアフリカのブルンジでも、こんな事はなかった。電灯が少なくて真っ暗な、誰もいない夜の到着ロビーで、「TOKESHI・SEKAI (おそらくTAKESHI・SAKAIの間違い)」と書かれたボードを持った黒人のスタッフが、笑顔で迎えてくれたのに。
これ以上、夜が更けても困るので、執拗に「タクシー?タクシー?」と言いながら熱視線を向けてくるオジサンの一人に声をかける。僕「○○ホテル分かる?」⇒オ「分かる」⇒僕「幾ら?」⇒オ「10ドル」⇒僕「OK(握手)」
なんの値段交渉にもなっていないし、相場もわからなかったが、先に料金を決めたことで、少し安心。それから20分後、無事に滞在先のホテルへと到着した。
6月11日(日)
「再会と再訪」
審査は月曜からなので、一日早い入国だったのだが、目的はちゃんとあった。それは、ファディの定番アイテムである「グアテマラ・ハニー」、そして企画販売で好評を得ている「グアテマラ・ナチュラル」を生産しているパートナー、AGROEXPORTのカルロス・キリン氏と会うためだ。
カルロス氏は、AGROEXPORTを運営する「キリン兄弟」の弟さんである。お兄さんのマックス氏とは2019年に会ったが、カルロス氏とは2016年以来の再会だ。ホテルに車で迎えに来てもらい、アンティグアへと向かった。
1979年(僕の生まれ年!)にユネスコ世界遺産に登録された、古都アンティグア(「古い」の意)。こちらはおそらく、2015年以来の再訪になるが、やはり変わらず美しい。
石畳の街並みを観ながら、カルロス氏と歩き回った。カルロス氏は優しい。僕の拙い英話でも、熱心に聞いてくれる。コーヒーだけでなく、お互いの子供の話やコロナ後の生活の変化、もし日本に行くことがあったら何処に行きたいか等、色んな話をした。
Coffee Break ~愛しのセビーチェ~
アンティグアの昼食は、何ともトラディショナルな雰囲気のレストランに連れて行ってもらった。メニューはどれも美味しそうだが、ここでは迷わずセビーチェだ。
セビーチェ(ceviche)とは、サイコロ状にカットした生または軽くゆでた魚介類とたまねぎ・トマトなどの野菜を、ライム(またはレモン)果汁・塩・種々の香辛料などで和え、そのまま漬け込んで冷やしたものである。ペルー発祥の料理らしいが、初めて食べたのがグアテマラだったので、僕にとってはグアテマラの郷土料理そのものだ。
このレストランでは、アボカドと椰子の芽(パルミット)も入っていて、味付け・食感とも最高だった。
6月12日(月)
「審査初日」
審査初日。今日はプログラムの概要説明と、カリブレーションカッピングを実施された。OOAK(One Of A Kind Guatemala)は、主催する団体は同じだが、COEとは全く別のプログラムだ(この時点で、2023年度のCOEグアテマラ審査は既に終了していた)。
【主な目標】として、以下の3つが説明された。
①(品種由来の)優れたコーヒー品質だけでなく、コーヒープロセスを革新する可能性も秘めた原産国として、グアテマラを位置づける。
②革新的なプロセスを提示し、商業化できるプラットフォームを通じて、生産者に直接的な市場アクセスを提供する。
③今まで注目されなかった、新たな協同組合や小規模生産者を発見する場とする。
そしてこれらの目標に到達する為、OOAKでは特定の品種を受け入れていない。それはゲイシャ、パカマラ、マラゴジペ、ジャバ、SL28、SL34、モッカ、等である。
(品種が)ゲイシャなら、パカマラなら必ず高得点、という傾向は、オークションの世界で年々大きくなっている。そんな中で、流行の品種を外して伝統的な品種だけを使い、革新的なプロセス(精選方法)によって品質はまだまだ向上することを示そうとするOOAKは、開始当初のCOEにあった開拓精神を彷彿とさせるプログラムだと感じた。
6月13日(火)
「Round 1、セッション4回で37カップ」
出品されたサンプル109カップの内、国内審査員の審査をパスして、Round1にノミネートしたコーヒーは37カップだった。今日1日かけて、私たち国際審査員が、37カップの中からカッピングスコア87点以上のコーヒーを選んでいく。
SP(スペシャルティ)コーヒーを評価する為の項目は、全部で8つ。
フレーバー(風味)
アフターテイスト(後味の印象度)
アシディティ(甘さを伴う爽やかな酸味)
マウスフィール(良質な液体の重さ・粘度・滑らかさ)
クリーンカップ(液質に風味を損なう汚れがないか)
スイートネス(甘さ)
バランス(風味の調和)
そしてオーバーオール(総合評価・個人的な好み)
それぞれに対して8点満点で評価を付け、それに調整点36点を加えたスコアが87点を超える事が、Round2へと進む条件となる。
6月14日(水)
「Round 2、セッション3回で24カップ」
Round2に進んだコーヒーは、24カップという結果だった。今日はこの24カップを再度審査し、ここでまた87点以上となれば、晴れてOOAKオークションにノミネートする事になる。
国内審査では、通常2~3回の審査が行われる。そして国際審査が、ROUND1とROUND2の2回。従ってOOAKオークションにノミネートするコーヒーは、最低でも4回の審査で、繰り返し87点以上を取り続けてきた事になる。
同じコーヒーであっても、焙煎の具合やその日の天候・気温・湿度、そして湯温や攪拌回数、カッパー(審査員)の力量や体調等で、点数の上下が起こりやすい。そんな状況下で、常に平均して高得点を獲得できるコーヒーは、誰もが認めるSPコーヒーである可能性がやはり高い。
6月15日(木)
「Top10カッピング」
審査最終日、最後に行うのはTop10カッピング。昨日のRound2で、暫定10位以内となった10カップをもう一度審査し、正確な順位に並べ替える作業となる。
ここまでくると、どれも高得点である事が確実なので、あとはどれだけ点数を「高く」付けるかもポイントになる。特に90点を超えたコーヒーは「プレジデンシャル」という肩書が与えられ、オークションでも注目の的となる。
6月15日(木)
「アワード・セレモニー」
TOP 10カッピングは午前中に終わり、午後からアワード・セレモニーが始まった。審査会場であるANACAFEの1階は吹き抜けのホールになっており、COEも含めてコーヒー関連のセレモニーは毎回ここで行われる。国内審査をパスした、37の農園主とその家族が招待されているので、場内は多くの人で賑わっていた。しかし最終的にOOAKの称号を得た農園は、この内の24農園。農園主たちは、自分のコーヒーが入賞しているかどうか、この時点では分からないので、熱気とともに緊張感も伝わってくる。
COEに参加した時の、農園主の顔ぶれを全員覚えているわけではないが、OOAKにノミネートした農園主たちは、その多くが初めて聞く名前だった。そして年齢も若い。ここ数年のCOEは、「去年上位だった農園が、今年も上位」という傾向が強い。今回のOOAKによって、今まで日の目を見なかった農園にもスポットが当てられる事となった。そういった意味で、このプライベートオークションは大きな役割を持つプログラムである。
Coffee Break ~麺は良い、餅は・・・~
出国当日、どうしてもラーメンが食べたかった。
前日の夜に慣れないテキーラを飲んだため、頭が重い。そのくせ、口は濃い味のスープを欲していた。丁度、グアテマラの知人がインスタで良さげなラーメン屋「BUTA RAMEN」を紹介していたので、グアテマラ最後の食事に向かう。
「RAMEN」は、予想以上にちゃんとしたラーメンだった。少し塩味が濃いめだが、二日酔いの体にはちょうど良い。残念だったのは「Mochi」。信号機みたいな色をした求肥の中は、レモンシャーベット、ココナッツアイス、バニラアイス、だった。ここは是非、小豆に変更を願いたい。
6月16日(金)
「ファームツアー」
審査終了の翌日はファームツアーに参加。毎年、COEやプライベートオークションへのノミネート経験がある農園の1つを訪問する事が通例になっている。
今年訪問したのは、Finca Gascon(ガスコン農園)。先日、カルロスさんにアテンドしてもらったアンティグア近くの山間部に位置する農園だ。
歴史もある古い農園だが、今の経営陣が若いので、設備は最新のものを取り揃えている。収穫したチェリーは自分たちで精選できる様になっており、ウォッシュドからナチュラル、ハニープロセスは勿論、アナエロビックも対応可能だ。
農園内をひとしきり回った後は、アンティグアを見下ろせる絶景スポットでカッピング。今回、共に審査した海外の審査員数名とは既に顔なじみだったようで、消費国との関係構築にも積極的な様子がヒシヒシと感じられた。
「終わりに」
グアテマラは自分にとって特別な国だ。
山口で大学生をしていた頃、友達から「タダで美味いコーヒーが飲める」という話を聞き、自転車で山口店に通うようになった。
カウンターでコーヒーを飲みながらメニューボードに目をやると、レフィナードという高額ラインナップの欄に書かれていたメニューの1つが、「ジェヌイン グアテマラ ブルボン」だった。
当時、コーヒーの名前といえばブラジル・モカ・キリマンジャロ程度しか知識のなかった自分にとって、グアテマラという名前は何とも心地よく、大人びた響きだった。そしてもし、自分がコーヒーを仕事にする事があれば、ぜひ行ってみたいと思いを馳せた国だ。
あれから20年。今、自分は憧れだったグアテマラで、コーヒーの味を評価する審査員という大役を任せていただけるようになった。今後も審査を通じてコーヒー生産国の発展に協力し、ひいてはファディのお客様に満足いただけるコーヒーが少しでも多くなるよう、貢献していきたい。
2002年入社。 焙煎歴22年のベテラン。各国コーヒー豆の買付にも自ら赴き、Cup of Excellenceの国際審査員を務める社員の1人。